昨年12月27日に楽天の三木谷浩史会長兼社長にインタビューする機会があった。同氏はTBS株大量取得以来、メディアのインタビューを受けていなかったので、1年以上も直接話を聞く機会がなかった。当日はかなりリラックスした感じで、話を伺うことができた。私的には、今年の楽天の進む方向性や、放送事業に対する考え方の匂いを感じ取ることはできた。インタビューのサマリーは9日(火)付けの産經新聞に掲載したが、生のやりとりを紹介したい。(今年、来年の言葉遣いは昨年末時点)
■やりたいことの80%はできた
――今年は個人向けのネットオークションにも本格参入した。また、社内機構の改革など、変化の年だった
「とにかく忙しい1年だった。業績的には、EC、トラベルなどの基礎事業が上がってきた。来年は創業10年目を迎えるが、今年は第2段の成長の段階に入るための、いろいろ準備をしなければいけない年だった。売り上げ自体は伸びているが、利益的にはちょっと踊り場にさしかかった。しかし、これは来年以降の成長の準備のためで、準備はできた」
「うまくいったところといかなかったところが当然あるわけで、イーコマース、トラベル、新規参入分野は伸びた分野だ。やりたいことの80%くらいはできたかなと感じている。残り20%は反省材料があって、クレジットカード会社、ここの建て直しが、できたんだけれども、もう少し迅速にできたんじゃあないかなと」
――スピードが遅かった?
「うん、ということもありますし、まあ、本社が九州ということもあり、今までの楽天流の、かなり積極的に、情報交換しつつという形ではなかった。まあ、株式を55%しか持っていなかったということがあったから。それが、今回は90%を超えたから。実質100%ということでハンドリングできるようになった。そういう意味では、ある意味、よかったなと」
――事業ユニットを38個に分けて、優先順位をつけているが、今年はどのようなものに力を入れるのか
「最優先のS1、S2は楽天市場と証券。次のJは利益を上げてゆく分野で、楽天クレジット、楽天KC、楽天トラベル、インフォシーク、それから、野球(笑)。クレジットを黒字にもってゆくと。JからSに上げたい。一般的にはいわゆるクレジットカード、信販、消費者金融は逆風だが、うちはちょっと別モノ。それ以外は、大きなところでいうと、人材部分。楽天の基本コンセプトは、会員データベースを使ってどうやって現金化してゆくかということだが、そういう意味でいうと、人材は上にシフトしてくるんじゃないかな。あとは力を入れているのはオークション。これはやはり、期待している。根幹事業の楽天市場自体が収益率で40%増というのを目標にしている」
■APIは、1月にベータ版を公開
――API公開を決めたが。これは評価されているのではないか
「来月以降、ベーター版という形でリリースしたい。一番最初はショッピングサービスのAPIから始め、その後に面白い機能のAPIを作り込んでゆく。勝手にこちらで作って『はいどうぞ』というのではなく、デベロッパーのコミュニティーを作って、その方々のニーズに応えたAPIを開放してゆくと。商業向けと非商業向けの両方をやる」
――どのくらいの波及効果が見込めるのか
「BtoB向けは直接効果があると思うので、10%位の流通総額アップを狙いたい。一方で、サンデープログラマー向けは期待も込めて5%程度。でも、これだけの商品のAPIを公開するのは世界でも初の例だと思う。ようやく巨山が動いたと、大きな岩がようやく動いたと、周りからは非常に評判がいい」
――でしょうね。アマゾンを意識したのか?
「アマゾンを意識したという部分はないが、アマゾンが先行しているのはそうだと思う。アマゾンがやっているからやろうというのではなく、うちの中から、いろいろなアイディアが出たなかで決定した。楽天は超ロングテールなんですよね。書籍よりもずっとロングテールで、そういう物を売るにはどうしたらいいのかと。やはり、APIを公開して、われわれだけで、ショッピングナビゲーション機能といっているんですけれど、価格比較などを自分で作るんじゃなくって、APIを公開することでそういう物を周りの人に作ってもらいましょうと言うコンセプト。それはそうだよねということで、じゃあ、やろうということで、決めるには時間がかからなかった。もうひとつは、楽天経済圏というコンセプトでやっているわけだが、楽天経済圏の重力というか、粘着性が上がってきたので、開放しても大丈夫かなという思いもあった。正直」
■まだ弱い分野がある
――主力の市場、オークション、イーコマース全般に、競合が入ってきている
「やはり、ひとつの戦略だけではだめで、出店者向けサービスを充実させて、商品数を大幅に増やす。オークション機能を大幅に増やしたり、サポートの質を上げる。システムは表に出ないが、ここは圧倒的に差別化できている。集客力もある。それを伸ばしてゆく。新規ユーザー、リピーターも。特に、楽天市場だけではなく、トラベル、クレジットも含めて総合サービス、楽天会員ということで、楽天に愛着をもってもらって、そして、リピート率を上げてゆくと」
――事業のツールはそろったのか
「ひとつは、弱い分野がまだある。例えば、音楽ストリーミングとか、やってるんだけど、アップルと比べると弱いという意味で。ストリーミングはショウタイムでやっているが、より拡張してゆく必要がある。品揃えはあるが、弱い分野があるので、そこは強化してゆきたい。しかし、これだけ広範にやっている企業は世界にもないんで。音楽、ストリーミング、動画にも力をいれなければ。もっとも、動画は金にはならないかもしれないけれど」
「しかし、米国とはちょっと事情が違うんだと思う。米国はADSL文化の中で、なかなかストリーミングで金儲けは難しい。しかし、光が普及し始めている日本では違う。ショウタイムはそれなりに利益でている。2MbpsくらいのISPでみればちゃんと見れる。この前ディズニーのバイスが来て、『そんなことができるのか』というので、『いやできるよ』といって(ショウタイムを)見せたら、感動して帰って行った。天下のディズニーのナンバーツーがですよ。全然違うんですよ、ADSL中心の米国とFTTHの日本では。『これ、ショウタイム、ダウンロードだろ』というので、『ストリーミングだ』『リアルタイムか?』『リアルタイムだ。戻してやろうか? どれがみたい? これ』。驚愕していた。これからの日本の放送ってそういう風になってくるんでしょうねえ」
「これからのネット革命というのは、まあ、まだまだ続くから。果てしなく続く、どこまでも果てしなく進化していくんだろうと、気が遠くなる。いつまで走り続ければいいじゃという感じだ。やはり、東京電力がパワーラインで始めたり。そう意味でも、この分野、もう少し頑張らなくちゃなと思います。(動画などの収入は)増えてるんですけれど、対前年比倍くらいになってるんですけどまだまだ小さい」
――音楽事業は何か計画があるのか
「戦略がまだない。しかし、基本的には品揃えを増やす事ですよね。米60年代の音楽から、クラシック、中島美嘉まで全部聞けると。そういうふうになればいいわけで」
――ところで、今年、登場したネットサービスで脅威と感じたものはあったか
「うーん、SNSはパートナーという捕まえ方。当然、アマゾンともやるだろうが、楽天ともやると。また、SNSは自分たちでもやっているが全方位外交でやってゆく。パートナーと考えればいい。ユーチューブに関しては、脅威かもしれないが、面白いサービス。しかし、見れば見るほどこんな物アップしておいていいのかと言うことがある。これ著作権取ってないもんねというものばっかり。面白いのは面白いんだが。あの画像なかったっけと探すとある。しかし、これ、商業ベースというとどうかなというところがあり、分からない。著作権方の解釈次第で、テレビ局が持っているのかアーチストが持っているのか。権利処理の行方次第では化けるかもしれない。見れないものがあるから人気がある。著作権無視しているからできるんだけど」
■携帯が主戦場に
――携帯を使って、若い人が随分と買い物をしているようだが
「そうですね、多い日だと1日に17~18%、3億円近く売れる。多分、携帯キャリアさんも予測していなかったんじゃないですかねえ。まずひとつは、画面的にいうとPCの方が大きくて見やすいが、空いている時間にちょっとできることが大きい。買いたい場面ですぐに買える。やはり、アドバンテージは24時間買える。不利な点は画面が小さく、入力に手間がかかる。しかし、そこをどういう風にカバーするかというソリューションがあればハード分は超えられる。もっとも、最近の携帯はだんだん画面も大きくなってきて、解像度も上がっている。接続先の入力にしても、1回登録しておけばいいわけだから。日本のインターネットは違う発展しているかもしれない」
――携帯端末への期待はあるか
「携帯も3G、4Gと進むが、ソフトバンクの参入でまた安くなるだろうと。キャリアさんにとっては大変だが、われわれにとっては嬉しい。非常に高速化して、安くなる。本当に、携帯経由で1日に3億円売れるなんて信じられないでしょうが、それが近い将来30億円になる。そういう時代が必ず来ると。むしろ、メーンフィールドが携帯になるかもしれないと考えている。一方で、携帯とパソコンを併用する人も出てくる。このシームレスな環境。つまり、パソコンで買い物かごに入れておいて、通勤電車で迷いつつも買うとか、そういうようなシームレスな環境を作ってゆくのが我々の戦略。携帯は子機として使える」
――キャリアはドコモとエクスクルーシブか
「そんなことはない。全方位。オークションも全方位だが、システム開発が間に合わなかったのでとりあえずドコモさんと、ということになった」
――ちなみにドコモを使ってるか
「もちろん。でも、一応、全部持っている。ウィルコムも含めて。商談に行く際に変える。証券なんかはウィルコムに期待していて、大画面使ってやっている」
――携帯とPCの話が出たが、どのくらいの割合になると思うか
「とりあえず20%。今は15%弱くらいなので4:1だけど、6:4くらいまでいくんじゃないかな。どうしても、説明が深いものなんかは向かないものもある。プラズマテレビを携帯で買うかというとやはりね。ワインぐらいだったらいいけど、高くても。この問題は解決できるかもしれないけれど、もう一段の工夫が必要かもね。でも、購入単価は上がってきている」
■事業は結果が大切。TBSも…?
――来年のキーワードは
「基本的にはWeb2.0という言葉が2006年のキーワードだったと思う。楽天エキスポのテーマが『2.0時代を乗り切る』。本格的に単純に2.0時代の到来。どうしてWebをつけていないのかというと、マルチデバイスかが進むということで、ウェブでなくてもいいでしょうということ。これが2007年。やはり、携帯だ。携帯でこんなに物を買うと言うことを皆んな想像していなかった。マイクロソフトが来年、ビスタを出すが、『脱Web』、『脱ブラウザー』によってグーグルに対抗するというのが基本的な戦略だと思う。そういう意味で、Webという言葉が抜けて2.0。その次は3.0。僕らのテーマはMore Than Web」
――ところで、これを聞かなければならないのだが、TBSの株式。なかなか進展が見えずに株価に影響を与えているが
「(笑)株価はまったく影響を受けてないと思っている。IT全体が落ち込んだが、業界他社と比べるとうちは値下がり幅が小さいほどだ。中長期的にみると、あらゆる通信と放送がIPベースになってくる。それは2年で起こらないが10年以内には起きる。そういう中において、複数のメディアを持ったメディア企業グループの中で、インターネットはまだ、外出しになっている。一体型メディアで捉えてゆくべき。ワンコンテンツマルチユースが基本的な考え方になってくる」
「テレビの業界からみても双方向というのが、『放送対通信』という世界ではなく、『ブロードキャスティングVSコミュニケーション』。つまり、一方的に送るのではなく、キャッチボールすると言うこと自体が当たり前になっている。ミクシィもはてなもそうだし、ネット上のキャッチボールが楽しいんだと、世の中が変わりだしてきている。そういうコンテンツのフォーメーションを変えていかなければだめだと思っている。いずれは、そういう風に変わらざるを得ない」
「マーケティングのやり方も変わらざるを得ない。テレビ広告一辺倒から、多様なマーケティング、ウェブや紙の媒体などを使いながらやっていかなければならないという時代が来ると思っている。そういうものへの理解をもう少し進めればいいのになあと思っている。テレビの業界の方々的にいうと、非常に思いはあるのかもしれない。しかし、世の中的な流れと、日本から新しいモデルを作って海外に進出していくという大所高所からの判断を下して頂ければありがたい」
――先日のコンベンションではテレビの時代は終わる的な発言もしていたが、テレビはまだ価値があるのか
「それは。なかなか、凄い力を持っている。ネットでも携帯電話でもリーチできないところにリーチできる。それが凄い。また、既得権益も持っている。やはり、日本の国ってそれでいいんですかという意識はボクの中にある」
――テレビ側でも変わらなければならないという意識はあると思う
「うーん、でも、彼らは総論OK、各論NOでしょう。でも、なかなかこれから厳しくなるんじゃないかな。ネットも含めてですけど。出生率が1.2でしょう。20年経ったときにどうなると思うと恐ろしいですよね。コンシューマー市場をみていると。そんな下らんことでぐだぐた言っていてもしかたがない」
――で、TBSのエクジットは
「それは何も言えない。夢も含めてなにもいえない。一気に終息に向かう可能性もあるし、そうでないかもしれない」
――しっぽは決まってるのか
「決まってない。皆さんが気にしているほど、本人としては問題意識がないと」
――TBS株の取得。今だったら、また結果は違ったんじゃないですか
「どうかなあ、同じじゃないかな。基本的な意識は変わっていないと思う」
――世の中の受けも違ったのでは
「それもどうかな。野球の時も後出しジャンケンと言われだが、うまく行けば世間は評価しれくれる。過程ではなく、できあがりとしてどういう図柄になるか。そういう意味でTBSも慎重に進めなければいかんという意識はある」
――テレビ局の存在をどうみるか
「テレビの画面はもっと開放しなくてはいけない。ちょっと、録音止めません?」
――いいですよ
この後は、米国の放送業界の話、日本の放送行政や放送業界などの話が始まった。しかし、基本的にオフレコなので記さない。
――来年の抱負は
「more than Web。ネット経済圏はさらに拡大する。奇をてらって新しいことをするのではなく、ユーザーのことを考えて、ユーザーが喜ぶことをやっていく。ネット経済圏の可能性が10あるとすれば、今はその1しかない。金融なども、ほとんどウェブ上で行われるようになる。社会のあり方、国境、経済圏などの抜本的な枠組みが変わるのがインターネットだ。皆んなが思うより変化のマグニチュードは大きいかもしれない」
――先ほど事業ツールの話をしたが、M&Aは
「M&Aは否定しない。有利なものがあれば少しずつやる。しかし、大きいのはない」


by iza777
不況下の物価上昇